誰もがこの街にいて幸せだと思える、幸福感ある街づくりを目指して。【前編】

雨宮 潔さん(67歳)山梨県大月市出身

甲府まちなかエリアプラットフォーム 会長
株式会社 岡島 代表取締役社長

立教大学経済学部卒業後、株式会社伊勢丹に入社。リビング営業部、MD統括部、伊勢丹相模原店長などを経て、静岡伊勢丹取締役社長に就任。静岡中心市街地活性化協議会に百貨店の社長として携わり、まちづくりに尽力。退社後の2018年に岡島代表取締役に就任。主体的に動く民間事業者と行政、専門家などを中心にさまざまな立場の人が集い、まちなかの未来ビジョンを議論・検討・作成し、その実現に向けてアクションしていく組織「甲府まちなかエリアプラットフォーム」の会長も務めている。

社会性のある活動を行う『核』となる企業でありたい。

雨宮さんが会長を務める「甲府まちなかエリアプラットフォーム(以降、略称AP)」は、従来のトップダウン型ではなく、主体となる事業者、団体、個人を起点としたボトムアップ型で目指すまちなかの未来像や活動方針をまとめ、その実現に向けた取り組みをリードしています。APは2023年に発足して以来、甲府まちなかへの愛を共有する仲間の輪を広げながら活動を続けていますが、この活動には「自分が描く百貨店像を創り上げることと、合致するものがあると感じた」と雨宮さんは言います。
「私は大学卒業後、念願の伊勢丹に入社しました。そして定年まであと3年ほどのタイミングで静岡伊勢丹の社長の辞令を受け、百貨店の社長として静岡中心市街地のまちづくりにも携わるようになりました。そこで私は『まちづくりは手法とかテクニックではなく、自分が当事者だと思う人が何人増えるかという事と、いかにアクションを共有するかが大事』ということを実感したのです。それは今APの活動にも活かされていると感じています。
昭和時代の百貨店は遊園地もあれば今でいうファミレスのような食堂もあるなど、全てが揃っている場所でした。しかし現在はそれがみんな多様化し、分散化し、さらに一つひとつの業種が特化しています。時代の変化の中で百貨店が担うべき売上の規模は小さくなったとしても、良いものを売り、社会性のある活動を行う核となる企業でありたいという思いが私にはありました。それで今から7年ほど前に岡島の社長をお引き受けした次第です」

人の繋がりを大切にし続けてきた、この街だからできること。

伊勢丹の人間として岡島を見た当初、建物も老朽化し、経営も厳しいだろうと感じたという雨宮さん。しかし実際に中に入ってみて、経営が成り立ってきた理由がわかったと言います。「甲府の皆さんは、昔からの関係性を大切にして、贔屓の方から買うという価値観をお持ちの方が多く、店とお客様との関係性がとても密であることに気付きました。人との繋がりを大切にしてお互いに助け合おうとする土地柄なのだとわかり、この土地柄を活かしながら時代に対応し、新しいビジョンを加えていけば、街にも貢献できるだろうと思いました」。岡島は2023年3月に近隣商業施設「ココリ」に移転し新たなスタートを切りました。何でも揃い、建物がひとつの街のような大規模な百貨店ではなく、新店舗は規模を縮小する道を選びました。「規模は小さくなっても百貨店として1番大切な対面販売を疎かにせず、付加価値のある商品の魅力をしっかりお客様にお伝えし、ご満足いただけるお買い物をしてほしいと思っています。岡島がそういう店であれば、お客様の生活は豊かになり、この街に住んでいる人の感性も上がっていくでしょう。また、これからは周りの店舗と連携して、買い物や飲食、イベントなど、多彩な楽しみ方ができる新しい街を作りたいという思いもあり、岡島がそれをリードしていきたいと考えています」

目指すのは、幸せを感じられるまちづくり。

APでは、ワークショップ等を開催して多くの人から甲府の良いところや課題点、あるいは可能性などの意見を出してもらい、そのために何をすべきか議論を重ねています。その議論の中で雨宮さんはカルチャーショックを感じた出来事があったと言います。「私は静岡にいた時も、甲府に来てからも、百貨店の社長なので街の賑わいを復活させたいと思っていたんです。またそれが当然だと思っていました。ところがメンバーからそうじゃないと言われたんです。人口が減っていくのに、賑わいを復活させるというのは無理。人口減少に歯止めをかけようと行政も教育などにお金をかけているが結局学校を卒業するとほとんどこの街から出て行ってしまうのが現状。だから、この街にいて幸せだと思える日常の幸福感を作ることが街の活性化に直結する、という若い人の意見を聞き、本当におっしゃる通りだと思いました。違うバックグラウンドを持った人たちが集まってお互いに影響を及ぼしながら、すごく良い目標設定ができたと思っています。こういう事がまちづくりをするパワーとしてとても大切ですし、また甲府市が事務局を務める公民連携という良さもAPにはあると感じています」と語る雨宮さん。会長として柔軟な感性で意見を受け止め、発展させながらAPは着実に魅力あるまちづくりを進めています。

【後編】では「甲府まちなかエリアプラットフォーム」の具体的な取り組みや、雨宮さんが考える甲府の魅力などを紹介します。

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