
中野シロウさん(58歳)神奈川県出身
プレイセットプロダクツ代表
KOFUプロモーションデザインディレクター
美術学校卒業後、玩具メーカー勤務を経て、現在はデザインチーム「プレイセットプロダクツ」代表を務めている。キャラクターデザイン制作のほか、企業の商品企画やプロデュースを手掛けるなど幅広く活躍。また、甲府市のシティプロモーションにおいて、デザインを活用した戦略的かつ効果的な広報・PR等の実施に向け、プロモーション及びデザインについて実績のある優れたクリエイターの方から助言・協力を受けることを目的に設置された「KOFUプロモーションデザインディレクター」も務めている。2020年山梨県北杜市高根町清里に移住。
豊かな自然の中でゆったりと。「ただ、ここに居る」その時間がいい。

中野シロウさんは、日清食品チキンラーメンの「ひよこちゃん」や日清シスコの「シスコーンファミリー」など、誰もが知っている人気キャラクターのデザインをはじめ、アニメーション制作、企業の商品企画やプロデュースなど多彩な分野で活躍するデザイナーです。神奈川県横浜市出身で、長年東京や横浜を拠点にしてきた中野さんが清里に移住して来たのは2020年のこと。「横浜で育っているので、もともと自然に対しての強い憧れがありました。僕ももうある程度の歳ですし、子どもたちも巣立って、仕事の拠点も特に東京である必要はないと感じるようになり、清里にはゆっくりするつもりで移住して来たんです」と穏やかな口調で話す中野さん。「最初は軽井沢、次に蓼科へと移り、最終的に清里に落ち着きました。軽井沢も蓼科も良かったんですが、別荘地なのでいらっしゃるのが東京の方が多いんです。でも清里は別荘もありますが地元の方が大勢いて、ここは良さそうだなと感じました。土地の広さも魅力ですね」そう言って窓の向こうに広がる草原を眺めながら「こんな抜け感、東京にはないですから。こういう所に居たいなと思ったんですよ」と中野さん。東京を引き払って完全に清里に移住して以来、東京にはほとんど行っていないと言います。「仕事関係の人も清里に来てもらっています。みんな来たがるんですよ、いいところですから。仕事柄環境を変えることが刺激になってとても面白かったので、僕はこれまで11回引越しをしました。でも今の僕にとっては「ただここに居ること」、それが良いんです。清里を終の棲家にするつもりでいます」。
クリエイターの視点で街の新たな価値を創り、次に繋いでいく。

中野さんは清里駅前の不動産を7軒購入し、リフォームを進めていきました。「僕が清里に来た時は清里駅前の店舗はほとんど閉まっていたので、まずそれを開けようと思いました。住んでいない不動産は東京でも問題になっていて、廃墟化しているところが多くあります。そうなると街の価値が下がるんですよ。だからリフォームしてとにかく店を開けていこうと考えました。汚いままではみんな良さがわからないですから、まず僕がリフォームして店をやる、そうすると欲しい人が出て来るんです。東京に比べれば驚くほど安価で店が買えますから、若い人の移住にも繋がりますね」と中野さん。まずは駅前にアンティーク家具店とヴィンテージ古着店をオープンさせました。「僕が思う良い街にはヴィンテージショップが多いんです。余裕があるということなんでしょうか。それを清里でやってみても面白いんじゃないかと思って店をつくりました。しっかり価値のあるものを取り扱えば商品はネットで売れますから、実店舗は街のために開けておけばいいわけです」。他にも清泉寮で赤毛のアンのショップを開くなど、中野さんの活動は清里の活性化に繋がっていきました。「大きなテーマとかは持たずに、自分で楽しくやっていこうと始めたことです。僕が持っているコンテンツで街が潤ったり、復活していけるんじゃないかと思いました。最初から地域創生を掲げていたわけではないんですけど、たまたまそうなった感じですね」と笑顔で語ります。
清里をサブカルチャー・ポップカルチャーの街に。



駅前だけでなく、かつて現代美術館だった物件も買い取って、廃屋のような状態だったものを再生しミュージアムホテルもつくりました。ミュージアムには中野さんがこれまでに収集したコレクションの中から約3万点が展示され、貴重なアーケードゲームで実際に遊ぶこともできるなど、クリエイティブな空間が広がっています。「外国の方が見ても面白くて、自然の中に来てあえてインドアで楽しむみたいな感覚もいいなと思っています。僕は清里を日本が生んだサブカルチャーを代表する街にしたいと考えていて、ミュージアムについても次のプランが進行中です。清里はかつて繁栄した時期があり、東京、横浜にいた僕でも知っているほど有名でした。そういう街というのはポテンシャルが高いんです。それに80年代の建物が形として駅前にまだ残っている部分があります。これは奇跡的と言えるんじゃないでしょうか。東京は80年代のものは全部壊してしまって、今はもうないですから。それに清里は都会に比べて圧倒的な広さがあるので、例えば車やバイクなどモーター系のイベントだってできます。交通渋滞もなく、自然の中をドライブするのも気持ちいい、最高の環境ですよね。他にもいろんなジャンルの企画を実現できる可能性があると思っています」。可能性がある街を再生していく、その仕掛けについてはいくつが構想があり、すでに進めていることもあると言います。「可能性の高さは甲府も同様です。非常に面白い街ですよね。甲府ならではの魅力を引き出し、活かしていきたいと考えています」と語る中野さん。クリエイターの豊かな発想力と実行力が、今私たちの街の新しい未来を見せてくれようとしています。

【後編】では、中野さんが考える甲府の魅力やブランディングなどについて紹介します。


