
雨宮 潔さん(67歳)山梨県大月市出身
甲府まちなかエリアプラットフォーム 会長
株式会社 岡島 代表取締役社長
立教大学経済学部卒業後、株式会社伊勢丹に入社。リビング営業部、MD統括部、伊勢丹相模原店長などを経て、静岡伊勢丹取締役社長に就任。静岡中心市街地活性化協議会に百貨店の社長として携わり、まちづくりに尽力。退社後の2018年に岡島代表取締役に就任。主体的に動く民間事業者と行政、専門家などを中心にさまざまな立場の人が集い、まちなかの未来ビジョンを議論・検討・作成し、その実現に向けてアクションしていく組織「甲府まちなかエリアプラットフォーム」の会長も務めている。
甲府の中心市街地の『余白』に息吹を吹き込んでいきたい。

雨宮さんが会長を務める『甲府まちなかエリアプラットフォーム(以降、略称AP)』では、2023年の発足以来、『甲府のまちなか未来ビジョン』を描く、『幸せな日常』を増やすための活動を先導する、みんなの『甲府まちなか愛』をひろげることを目指し、仲間の輪を広げながら公民連携で活動を続けています。
「APではワークショップ等を開催して多くの人から甲府の魅力や問題点などさまざまな意見を伺い、議論を重ねていきました。その中で見えてきたひとつの方向性が甲府の中心市街地の『余白』となっている部分を何とかしようということでした。例えば県庁近くのスクランブル交差点周辺は駅にも近く芝生広場もあるのに、多くの人が行き交うのは横断歩道の上だけです。昭和時代に山梨で最初のマクドナルドができるなど、人々が集う場所だったオリオン通りも今では当時の賑わいを感じることはありません。そこでAPでは、このような余白を感じてしまうところに息吹を吹き込み、県民の皆さんが『幸せを感じられるようなまちづくり』をしていこうと考えました」。
APがすでに実施している取り組みに公園等の活性化があります。昨年10月には社会実験として舞鶴城公園南広場とオリオン通り、中央公園の3箇所でイベントを開催するなどのプロジェクトが実施されました。「舞鶴城公園はすぐ近くに子どもの屋内運動遊び場『おしろらんど』もあるので、公園を活性化することで、これまで郊外のショッピングモール等に行っていたファミリー層が戻ってきてくれました。そこで赤ちゃん連れでも滞在しやすい環境を整えるため、岡島では館内に授乳室を設けました。このように、人の流れが変わると、あったらいいなという声が具現化していきます。今後もそういう変革を起こしていきたいと考えています」。
若者へのエールとまちなかへの思い。

中央公園には、若い世代の人が高い関心を持つダンスやスケートボードができるエリアが設置されました。それに伴い若者の公園利用が増えているといいます。「私は若い世代の皆さんには、もっと混ざり合って!と言いたいです。スマホひとつで誰とでも繋がることができる時代ですが、リアルな世界で勇気を持って一人ひとりの接点を増やしてほしい。世の中を変えていったり、地域が落ち込んでいる時にそのベクトルを変えるには、混ざり合うことが必要だと思っています」と若者へエールを送る雨宮さん。「街の良さというのは、いろんな人たちが、いろんな目的で、自分の時間を過ごせるところにあるのではないでしょうか。また、それを目の当たりにする面白さもありますね。それが公園であり、『まちなか』だと私は思っています」。

公園の活性化事業等を通して「当事者と思ってくださる方を増やせば街は絶対にうまくいくと確信した」と雨宮さんは言います。「甲府には、志高く自分の世界観をいろんな方に伝えたいと考え、お店を経営されたり、仕事をされている方が多いです。ただ皆さんあまり規模感を求めず、自分の世界観を評価されることで満足されているように感じます。それ自体、とても良いことではあるのですが、もっと連携する方が街のパワーになると私は思います。そこをAPで何とかできないだろうかと考えています。強引にひとつにするのではなく、緩やかな連携の中で共に盛り上げていく方法を研究していきたいです。『小江戸甲府花小路』もでき、甲府の街に対する人々の関心が高まっている今、どう甲府まちなかをリードしていくか、というのが我々APのこれからの役割であり、考えていかなければならない事だと思っています」。
百貨店としての理想像を追求し、地域の未来像を描く。

百貨店の理想像として2つの大きなポイントがあると雨宮さんは言います。「まずひとつ目はファッションです。流行やその時代の価値観をしっかり発信できる店でありたいと思っています。例えばファッションのカジュアル化が進むとスーツの着こなしや、改まった場所での装いを知らない人が増えてしまいます。またファッションにはサイクルがあり、時代の流れの中で絶対戻ってくるものです。そういった時に確実に対応できるよう、ファッションにはこだわっていきたいと思っています。もうひとつは地域産業のインキュベーション機能を果たすことです。かつて煮貝が岡島から全国の大手百貨店に広がり、山梨の名品が花開いた例もあります。このように山梨の特産品を全国区にしていく機能も岡島が担っていきたいです。これも社会性のある小売だと私は考えます」。さらに雨宮さんはこれからのライフスタイルという観点からも甲府には大きな可能性と魅力があると続けます。「東京との距離がこれだけ近く、それでありながら都会と隔絶したリゾート感や別世界観があるのが甲府です。岡島の跡地に建設されるマンションも3分の1は県外の方が購入されました。リモートワークが定着したことにより、生活の拠点は甲府に置き、月に数回あずさで都心に通う人も増えています。そういう人と地元の人が混ざり合えばそこに新しい文化も生まれるでしょう。最新のライフスタイルと、地方ならではのライフスタイルが渾然一体となり、人間味ある暮らしができる街になることが期待されます。それを実現するためにどうすればいいかを考え、そこに岡島が良い形で百貨店としての使命を果たしていければと思っています」。


